KAGEROU

ちょっと友人と食事をする約束をして、待ち合わせの時間まで時間つぶしをするために近くのBOOK・OFFに入りました。
何気なく棚を見ていると、ずいぶん前に話題になった水嶋ヒロ著の「KAGEROU」が105円のワゴンセールに入っていたんです。
「そういえば読んでないなぁ」と思い、105円だったらいいか。ってことで買っちゃいました。

文字数もページ数も少ないので、1時間ほどで読了しました。
読み終えた感想としては、
『水嶋ヒロがんばった』
ってところでしょうか。

芸能人が本を書く時ってゴーストライター使うもんなのかもしれませんが、このKAGEROUは間違いなく水嶋ヒロ本人が書いたのでしょう。
ゴーストライターが書いてこの出来だったらまずいです。

初めて書いた小説ということでいろいろ課題はありますが、しっかりと自力でがんばって書き上げたというのは伝わってきます。
自分の中にある思いを形にして何とか読者に伝えたいという努力も読み取れます。
ですが、いかんせん実力が伴っていません。
登場人物に奥行きがなくて薄っぺらいし、序盤から半分までが背景説明に終始して物語が動かない。
情景描写や文章表現にも特に惹かれるものはない。
とはいえ、そういった課題も処女作ですから仕方ないのかもしれません。
書いた以上は文学賞に応募したくなるのも人の性でしょう。

命の大切さを説くというテーマにしてもどこかで聞いたような話ばかりで、「うん。そうだね。そのとおりだよ。だから何?」という感じです。
小学生ぐらいならこの本を読んで命の大切さについて考えさせられるかもしれませんが、大人が読むほどの内容ではありません。
もともと児童書の分野に強いポプラ社ですから、漢字全てに読み仮名をつけて内容も小学生向けに編集し直せば『図書係のおすすめ』のような本にはなり得るかもです。
大賞とか関係なく、普通に水嶋ヒロ名義で出版してれば良かったのに。

正直なところ水嶋ヒロ本人に対しては特に思うところも無く、逆に『今後も作家業を本気でやりつづける意思が本当にあるなら』応援したいとまで思います。(「映画の脚本にするために小説書いた」とかぬかしやがったり、本作以降に全く文筆活動をしないとなると遠慮なく叩きますが)

問題はこの作品を大賞に選んだポプラ社の方です。
第五回ポプラ社小説大賞には1200を超える作品が応募されたらしいですね。
確かに他の応募作品を読んだわけではありませんが、少なくとも1200もの作品が集まっていながらコレ(KAGEROU)よりも優れた作品が無かったとか…、いくらなんでも無理があるでしょう。

ネット上で個人が公開している趣味の小説でも、これよりしっかりした出来のものはあります。

出来レース出来レースって言われてるけど、確かに出来レースじゃ無かったら審査員の能力を疑うレベルです。
本気で選考してこの結果だったら、選考に携わった人間は今後いっさい小説に関わる仕事をするべきじゃないでしょう。

最初から出来レースだとすると、あまりにも対応が稚拙です。
一連の動きが全て『本の部数を伸ばすため、売るため』の宣伝行為にしか見えません。
確かにこういった出来レースというのはいろんな分野であると思いますが、それにしたって一見出来レースに見えないカモフラージュぐらいはするでしょう。
ここまであからさまな出来レースも珍しいのでは無いでしょうか。

この件では確かにポプラ社の売上も大きく伸びたでしょう。
KAGEROUも売れたでしょう。
他の受賞作も話題性のおかげで売れたことでしょう。

ですが、
もし出来レースで無ければ、ポプラ社には出版社としての能力が不足しています。
もし出来レースなら、ポプラ社には出版社としてのプライドや自負がありません。

いずれにしても、ポプラ社はKAGEROU効果で得た売上以上に「信用」や「評判」というお金では得がたいものを失ったのではないでしょうか。

また世間一般に「やっぱり出来レースってあるんだな」「出版社も売上のためなら不道徳なことをやるんだね」というイメージを植え付けてしまったことは疑いようがありません。
そういう意味でポプラ社の罪はとても重い。

で、このKAGEROUが受賞したポプラ社小説大賞はこの回で終了。
翌年(つまり2011年)からは賞金を10分の1に減らしてポプラ社小説新人賞に変わったようです。
KAGEROUの影で落選してしまった小説の作者はKAGEROUを読んでどう思うんでしょうね?
私だったら「二度とポプラ社の文芸賞には応募しねぇ!」ってなると思うんですが。
調べてみると、780通の応募があったって…。 えぇ~!?

……どうやら応募する方にもプライドは無かったみたいです。

まぁ正直なところはわかりませんけどね。
第五回ポプラ社小説大賞で落選した人が、そのまま翌年にポプラ社小説新人賞に応募しているのかどうかなんてわかりませんし。
もしかしたら「KAGEROUすげぇ! これに負けたんなら納得だわ。次は俺もがんばろう」って思った人が多かったのかもしれませんし。
逆にKAGEROU読んで「こんなんで2000万の大賞受賞できるんなら、俺(私)にもチャンスあるんじゃね?」ってにわか小説家が増えたのかもしれませんし。

ただ少なくとも私は今後30年間、ポプラ社の賞は全く信用しないことにします。

って、105円ぽっちしか払っていない私がえらそうに言ってもね~w